Céléjour
暮らしのこと3

夏に切り花がすぐしおれてしまう理由と、長持ちさせる水温の工夫

夏、花瓶に飾った花が数日でしおれてしまうのは、水温のせいかもしれません。切り花を長持ちさせるための水温の保ち方と水替えの工夫を、研究データとともに静かにご紹介します。

夏、花瓶に活けたばかりの花が、数日ほどでうなだれてしまう――そんな経験に思い当たる方は少なくないはずです。気温の高さそのものより、実は花瓶の水温が大きく関わっていることを、私たちは知るようになりました。切り花を長持ちさせる方法として置き場所や水替えの頻度が語られることは多いのですが、見落とされがちなのが「水そのものの温度」です。

水温が一度違うだけで、花の呼吸は変わる

切り花は、茎の切り口から水を吸い上げながら、同時にゆっくりと呼吸をしています。市村一雄氏らの研究グループがバラの切り花を用いて行った実験では、花瓶の水温を23度、15度、10度に保って観察したところ、水温が低いほど花もちの日数が延び、10度前後に保った群は23度の群よりも長く咲き続けたと報告されています。冷たい水は雑菌の増殖をゆるやかにし、茎が水を吸い上げる力を保ちやすくすることが、その理由のひとつと考えられているそうです。

とはいえ、毎日氷水を用意するような手間は、暮らしのなかでは続きません。私たちがお客さまにお伝えしているのは、もっと小さな工夫です。花瓶を直射日光やエアコンの風が直接あたる場所から少しずらすこと、そして水は一日に一度、できれば朝のまだ涼しい時間に替えること。この二つだけで、水温の上がり方はずいぶん穏やかになります。

水を替えるという、小さな儀式

水替えは、花を長持ちさせるための作業である以上に、一日の始まりや終わりに手を止める時間でもあります。茎の先を少し切り戻し、濁った水を新しく涼やかなものに替える――その3分ほどの所作は、花のためであると同時に、忙しさのなかで自分を整える小さな区切りにもなります。私たちは、それこそが花のある暮らしの、もっとも静かな効用だと感じています。

一輪の花がどれだけ長く咲き続けるかは、水温という目に見えない配慮に、静かに支えられています。私たちが花に美しいかたちを与えようとするとき、その美しさは切ってから終わるのではなく、迎えてくださった方の手のなかで、なお続いていく物語なのだと思います。今日のどこかに、静かな祝福が咲いていますように。

参考:Ichimura, K., Kawabata, Y., Kishimoto, M., Goto, R., & Yamada, K.(2006)「Effects of the Temperature of Vase Water on the Vase Life of Cut Rose Flowers」Environment Control in Biology, 44(2), 85-91

Author

Tomoyo Michishita

Maison Élanique Inc. 代表。愛に美しいかたちを与えるメゾンとして、 花と香りの傍らで綴っています。