Céléjour
香りのこと

「香害」という言葉が生まれた時代に、香りを一滴だけ纏うということ

「香害」という言葉を、電車の中吊りやニュースの見出しで見かける機会が増えました。以前なら気に留めることもなかった香りが、誰かにとっては息苦しさになりうる——そう知ってから、香水の瓶を手に取る朝の指先が、少しだけ迷うようになった方もいらっしゃるかもしれません。

その迷いは、正しいものだと私たちは思います。香りを嫌う人が増えたのではなく、香りが人と人との距離を越えて届くものだと、誰もが少しずつ気づき始めただけのことだからです。

香りは、量とつける場所で表情を変える

香水は本来、纏う人の後ろに静かに残る「気配」であって、すれ違う人の記憶に強く残る「主張」ではありません。手首の内側に直接ではなく、髪の内側やストールの裏地に一プッシュ。肌から30センチほど離し、香りが空気に触れてから10秒ほど待って袖を通す。それだけで、エレベーターや会議室という限られた空気の中でも、香りは誰かを圧することなく、纏う人だけのそばに留まってくれます。

少ない香りほど、選び抜かれた香りであることが伝わります。控えめであることは、香りを我慢することではなく、その香りをより丁寧に扱うということ——私たちはそう考えています。一滴を惜しむ日があってもいいのです。香りは、纏う量ではなく、纏う心づかいで記憶されるものだからです。

今日の一滴を、誰かのための余白として残しておけますように。